ごあいさつ

21世紀に入り、10年余りが経ちました。
最近は、特にアマチュア合唱団が、作曲家に積極的に委嘱をし、新しい合唱曲が、次々と本当にたくさん生まれるようになりました。それは、とても素晴らしいことなのですが、その一方で、かつて20世紀に生まれた名曲が忘れられつつあるのも事実ではないでしょうか。
かのヨハン・セバスチャン・バッハも、亡くなってから数十年は忘れ去られた作曲家でした。
しかし、1829年、メンデルスゾーンが、当時埋もれていた『マタイ受難曲』を自ら指揮して再演し、バッハの素晴らしさを世に伝えたのです。
いくら名曲であっても、演奏されなければ多くの人には伝わりません。
日本の合唱曲も、本当に名曲かどうかは後世の人々に委ねるとしても、実際に演奏して歌い継いでいかなれば、その評価すら受けられないということなのです。
新しいものが生み出されていくこの時期に、同時に古いものにも目を向けながら、未来に向かって歌い継いでいき、それらが本当にどうなのかということを、ずっと問い続けていく。
そんなきっかけとなる活動にしたいと考え、このように企画させていただきました。
今回、単独の合唱団で演奏会を開催するのではなく、こういう形で合唱団を公募にしたのは、理由があります。
合唱団というのは、小さなコミュニティであり、どうしてもその中だけで完結してしまいがちで、なかなか外に対する広がりを持ちにくいということがあります。
しかし、こうして合唱団の枠を超えて集まり、一つの事を成し遂げていくことでお互い刺激を受けたり、さらに「やっぱり、いい曲だね」と、その良さをそれぞれの合唱団に持ち帰ってもう一度再演していただいたりと、この企画をきっかけに輪が広がっていくのを期待して、あえて公募という形にさせていただきました。
「20世紀の名曲」ですので、まずは20世紀をリアルタイムで生きた人(!)に参加していただき、そこに、新しい世代の人が加わって、幅広い世代の人たちが音楽でつながっていけたらという思いがありました。そして実際に、上は70代から下は20代まで、本当に幅広い年齢層の皆さんに集まっていただき、最初に思い描いていた形でスタートをきることができ、本当にうれしく思っています。
そしてもう一つ。
昔はそういうことはなかったのですが、現在は録音技術等が発達し、我々が演奏すれば、それを、未来に残していくことができます。是非そうやって、「未来に残していける音」を作ってけたらな、と。
それは決して「うまい」演奏を目指すのではなく、作品の「魂」を伝える演奏ができたらと考えています。
「そうか、この作品は、こういう想いで向き合う音楽なのか」というものが、感じられる演奏ができたらと思っています。
「上手なものを残す」のではなく「その作品の、魂を残したい」ということです。
それぞれの曲がどんな想いで作られて、そしてどんな風に向き合うと、その作曲家の意図した音楽として蘇るのかということを、これから1年かけて、みなさんと、考えていけたらと思っています。
ですから、自分も再度、勉強だと思ってやっていきたいと思います。
例えば、それぞれの曲について、私よりもよく知っている方がいらっしゃるはずです。
そういう方は、是非どんどん、この中でそういう情報を発信してください。
また、今回、いろんな所から、いろんな人が集まってくれています。
小さい輪にかたまらずに、友達の輪を広げていってください。そうすることで、音楽以外のことも含め、世界も広がるのではないかと思います。
これから一年かけ、ぜひ作品の魂が伝えられるような、熱い演奏をめざしていきましょう。

平成23年4月3日 20世紀の名曲を歌う会vol.1 初回練習冒頭にて

音楽監督 雨森文也